まるすの不思議な旅

「まるすの不思議な旅」とは

本州乗車券片道乗車券を作って実際に旅をしてみたり、トワイライトエクスプレスに乗るために、東京から大阪まで出向いてみたり、鉄道ファンならではの不思議な旅日記を公開しています。

まるすの不思議な旅 - 二人だけの旅行記(五能線)

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まるすの不思議な旅 - 二人だけの旅行記(五能線)

 この旅日記は、あなただけに書いた物です。ですから、他の方には一切見せておりません。二人だけしか知らない旅行記です。五能線での貴方の行動なども少しだけ私のメモや、記憶に残っているのですよ。私の記憶力はさほどのものではありませんから、間違いもあるでしょう。もし、失礼なことを書いていてもどうぞご勘弁ください。ただあの時、写真であなたを真ん中にして景色を撮影したように、何となく気になる存在であったことだけは事実です。それゆえ、いろいろと見たり聞いたりしていたのかも知れません。


 6月24日20時31分、盛岡駅始発の快速八幡平が弘前駅に到着した。実に3時間41分の旅である。弘前駅前でタクシーを待つテニスの大会帰りの女学生がいる。「テニスの大会だったの?」と通りすがりのおばさんが聞く。「そうなんです」とだけ答える女学生達。その表情にはどことなく暗い陰があった。おばさんは「結果はどうでした?」と重ねて聞く。対して、「一回戦は勝ったんですけど、二回戦で負けてしまいました」と答える。

 そういう会話を背中に聞きながら、私は「弘前ホテルニューキャッスル」へ向けて、タクシーを飛ばした。部屋に着くと、まず汗にまみれていた身体をシャワーで清めた。さっぱりした面もちでテレビをつける。天気予報では、明日は曇りのち雨だという。雨の海岸もいいかも知れないと思うのであるが、初めて乗る線区ではやはり晴れていてもらいたい。

 そっと机の引き出しを開ける。中にはJRの時刻表兼ガイドブックが入っている。暇を持て余しているので、煙草を片手にページを繰ってみた。いろいろな観光地が列挙されているが、私の今回の目的は、すべてを計画通りに乗車していくことであるために、今回は敢えて観光地めぐりはしないことにした。

 翌25日、電話のモーニングコールで目覚めた。ノスタルジックビュートレイン2号の発車が9時11分なので、9時にはホテルを出ていなければならない。8時頃、朝食を採るために階上へ上がっていく。食堂には数名の客がいた。奥から二番目にあなたがいらっしゃったのですよね。正面に「岩木山」が見えるように座席に案内された。時折雲に隠れる岩木山に私は心を引きつけられる物を感じた。

 私の右となりには、朝からビールで乾杯している二人の姿があった(Aさんです)。まず私の左にいた男性が席を立ち、そして奥から二番目の女性が席を離れた。私は、時計を気にしながらその後を追った。

 8時45分、指定した時間通りにタクシーが来た。タクシーの運転手に私は話しかけてみた。「今日は雨降りますかねぇ?」「岩木山が五合目まで見えていれば雨は降らないんですが。今日はどうでしょうね。微妙ですね」「実は、五能線に乗ろうと思っているんですよ」「あぁ、あそこは車で走っていても景色のいいところですよ。海岸ぎりぎりのところを道路が走ってますから」ほんの数分の間の乗車であったが、会話ははずんだ。青森の言葉と関東の言葉が見事に相対していたのである。

 弘前駅には、まだノスタルジックビュートレイン2号の姿はなかった。しばらくして黄色と濃い茶色に塗り分けられた車体が入線してきた。このノスタルジックビュートレインは、弘前から川部までは眺望車を先頭にして走る。9時11分、列車は定刻に発車した。私は眺望車の端のボックスシートでおばさん達と会話をしていた。このおばさん達は、自由席にいたのだが、指定席に切り替えてくださいと車掌さんにお願いしたそうである。そもそも、それを勧めたのは私であるが。

 林檎の樹林の中をいくノスタルジックビュートレイン2号。川部駅で機関車が切り放され、解放されたごとく眺望デッキに人が溢れる。天候はあまりよくない。今にも泣きだしそうな空を見つめ、「雨、降るな」と願う私である。

 列車が鯵ヶ沢駅につく頃だろうか、カップルと女性(あなただと思います)が同時に眺望車に入ってきた。彼らもやはり指定席に切り替えようと思ったのか、車掌さんと交渉している。二人はどうやら交渉が成立したようで、女性は男性の脇をすり抜けるように、あいている座席に腰をおろした。しかし、すぐにその座席を離れ後ろの座席に移動したようである。

 列車が鯵ヶ沢駅を発車した。眺望デッキでは先ほどホテルで朝食を採っていた「Aさん」が一人たたずむ女性と会話をしていた。女性の方は、Aさんが同じホテルに泊まり、朝食でビールを飲んでいたことを思いだしたかのようである。女性はAさんと会話を楽しんでいるようであった。奥入瀬を回ってきたこと、十和田湖の遊覧船に乗ったこと、五所川原に友人がいることなどが私の耳に届いた。

 鯵ヶ沢で乗車してきた男性は、談話シートで終始一人で景色を眺めていた。一方女性の方は、デッキに立ち長い髪を潮風に踊らせていた。私は、そんな姿を黙って背後から撮影してみた。髪を押さえ果てしない海に心を預ける女性の姿に何となく「絵」になるものを感じたからでもある。

「ふかうらの じゅりんいざなう ささやきに われのこころに さんこうかがやく」
 (深浦の 樹林誘う 囁きに 我の心に 散光輝く)

「かみおさえ なみおとによう ごのうせん」
 (髪押さえ 波音に酔う 五能線)

 それからというもの、談話シート、デッキではお互い知らない者どうし会話に花が咲いた。深浦駅を過ぎる頃から雨が落ちてきた。女性の方はデッキを離れ座席へと向かった。Aさんに「あの女の人も同じホテルに泊まってたんですよ」と言われ、いつか声を掛けなければと感じていたのである。列車が陸奥岩崎を通る頃、私は自由席の座席で一人煙草をくわえていた。ふと窓外を見ると「サンタクロース岩崎簡易郵便局」が目に入った。慌ててシャッターを切った私である。

 会話がはずんでいると、どうしても時間が早く過ぎる。列車が能代駅についたとき、今まで一人で談話シートにいた男性が立ち上がり、座席にいる女性に「お先に」とだけ声を掛けて下車して行った。

 「晴れていればよかったのに」というみんなの悔恨を乗せたまま列車は終着東能代駅に到着した。下車する直前に扉の前で私に女性に声を掛けるチャンスが訪れた。「同じホテルに泊まってたんですってね」それだけを言った。乗換時間の無い一同は無心に跨線橋を渡り始める。私は、その女性と二人で列に並んだ。先ほどの布石が効を奏したとでも言うべきか、会話を持つことが出来た。「これからどこまで行かれるのですか?」と聞くと、盛岡まで同じ経路で戻るのだと言うことがわかった。「座れないかもしれない。あ、向こうの方が少ないよ。移動します?」「そうだね」「もっと早く気がついていればよかった」。移動した所には屋根がないために若干列が短めになっていたのである。

 特急たざわ20号は14時09分に発車した。ここが禁煙車であることに若干とまどいを覚えたが、さほどでもなかった。二人で並んで乗車。私は二列席が空いているのに気付き席についたが、同行の女性はさらに前方にボックス席を見つけておりそちらへと腰をおろした。対面に女性の姿があったため、私が移動する訳にも行かなくなった。移動出来なかった理由はさらにある。私のとなりに五能線で会話を楽しんだ男性が来たからである。

 先のボックス席通路側に座った女性は、バッグから文庫本を取り出し読みふけっていた。私はそんな彼女を気にしながら話しの続きをするチャンスを窺っていた。列車が秋田駅に到着したとき、私の前の座席が好運にも空いた。さらに、隣の男性も下車していった。私は、彼女の方を眺めた。すると彼女も私の方を見た。私は目配せで「こっちにくるかい?」と言った。私の前の座席を転回させ、ボックスシートを作り、彼女を迎えいれた。私のとなりに彼女が来、前には、やはり五能線で会話の弾んだ男性(Bさん)が来た。

 ここまで、私はお互いに名前も知らなかった。3人で会話をしていると五能線で最初に話しをしていた方(Aさん)が現れた。Aさんの案でお互いに自己紹介を行う。しかし、私は結局自己紹介をしないまま終着を迎えることになる。11月に、またEEきっぷで逢いましょう。ということで、お互いに名前を公開した。ここで初めて隣にいた女性が「***さん」であることが判明する。

 Aさんは手に缶ビールとつまみ(蛸の足)を持っており、私達に差し入れてくれた。ほんの数分の停車時間で買ってきてくださったのだそうだ。

 話し込んでいると、3時間なんてあっという間である。もっといろいろと話しをしたかったし、もっといろいろと聞きたかった。そんな私の想いを断ち切るかのように、特急たざわ20号は盛岡駅に到着した。ここで、私に選択を迫られる。自分の計画を中止してあなた達と行動を共にするか、あくまで自分の計画を遂行するか。結果、私は後者を選んだ。性格として一度決めたことはやり遂げないと心残りになるからでもある。

 果たして、私の乗車した「やまびこ20号」は満員であり、座席につくことはできなかった。扉の前で立っていると、あなたたちが何か声をだしてこちらを指さしているのが確認できた。私には、「あっ、いたいた!」と聞こえたような気がした。

 出会い、それは果てしない偶然が重なり合って生まれる物。もし、あの時、あの状態になかったならば、この出会いはなかったろう。そう考えると、旅を人生と書くことが理解できるような気がする。

 こういった出会いを大切にしていきたい。そう願わずにはいられない。

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